SSブログ

中村哲さんの意見 [戦争と平和]

前の記事のコメント欄でNGO「ペシャワール会」現地代表の中村哲さんについて話題が出ました。私もぜひ紹介したいと思って新聞記事を保存してあったところなので、教育基本法活動一周年の記事はお休みして、中村さんの意見を転載します。8月31日付け毎日新聞7面で「テロ特措法をどうするか」という記事で、丸1面を使って、3人の方が意見を述べておられます。

3人3様の意見を書いていますが、私にとっては現場感覚に基づきヒューマニズムにあふれる中村さんの意見が圧倒的に説得力がありました。

転載は以下です。(色文字は私がつけました)
***************************************
なかむら・てつ1946年生まれ。医師。84年以来、アフガニスタンを中心に井戸作りと医療貢献を継続。03年アジアのノーベル賞とされるマグサイサイ賞受賞。

戦争支援をやめる時

誤爆による反米感情治安悪化に拍車
疲弊するアフガン農民の視点で議論を

 テロ特措法の延長問題が社会的関心を集めている。この法案成立(01年10月)に際しては、特別な思いがある。当時私は国会の証人喚問でアフガニスタンの実情を報告し、「自衛隊の派遣は有害無益である」と述べた。法案は9・11事件による対米同情論が支配的な中で成立、その後3回にわたり延長された。しかし特措法の契機となった「アフガニスタン報復爆撃」そのものについても、それを日本政府やメディアが支持したことの是非についても、現地民衆の視点で論じられることはなかった。

 現地は今、過去最悪の状態にある。治安だけではない。2000万人の国民の半分以上が食を満たせずにいる。そもそもアフガン人の8割以上が農民だが、00年夏から始まった旱魃により、のうちの砂漠化が止まらずにいるからだ。

 私たちペシャワール会は本来医療団体で、20年以上にわたって病院を運営してきたが、「農村の復興こそ、アフガン再建の基礎」と認識し、今年8月までに井戸1500本を掘り、農業用水路は第1期13キロメートルを竣工、既に千数百町歩を潤しさらに数千町歩の灌漑が目前に迫っている。そうすると2万トンの小麦、同量のコメやトウモロコシの生産が保障される。それを耳にした多くの旱魃避難民が村に戻ってきている。

 だが、これは例外的だ。00年以前に94%あった食料自給率は60%を割っている。世界の93%を占めるケシ生産の復活、300万の難民、治安悪化、タリバン勢力の復活拡大━。その背景には戦乱と旱魃で疲弊した農村の現実がある。農地なき農民は、難民になるか軍閥や米軍の傭兵になるしか道がないのである。

 この現実を無視するように、米英軍の軍事行動は拡大の一途をたどり、誤爆によって連日無辜の民が、生命を落としている。被害民衆の反米感情の高まりに呼応するように、タリバン勢力の面の実効支配が進む。東京の復興支援会議で決められた復興資金45億ドルに対し消費された戦費は300億ドル。これが対テロ戦争の実相である。

 テロ特措法延長問題を議論する前に、今なお続く米国主導のアフガン空爆そしてアフガン復興の意味を、今一度熟考する必要があるのではないか。日本政府は、アフガンに1000億円以上の復興支援を行っている。と同時に「反テロ戦争」という名の戦争支援をも強力に行っているのである。

 「殺しながら助ける」支援というものがあり得るのか。干渉せず、生命を尊ぶ協力こそが、対立を和らげ、武力以上の現実的な「安全保障」になることがある。これまで現地が親日的であった歴史的根拠の一つは、戦後の日本が他国の紛争に軍事介入しなかったことにあった。特措法延長で米国同盟軍と見なされれば反日感情に火がつき、アフガンで活動する私たちの安全が脅かされるのは必至である。「国際社会」や「日米同盟」という虚構ではなく、最大の被害者であるアフガン農民の視点にたって、テロ特措法の是非を考えていただきたい。

****************************************
半月ほど前、私はある有名ブログのコメント欄に意見として「日本でされている議論には、被害を受ける当事者であるアフガニスタンの人たちの利害がほとんど出てこないのが、非常におかしいと思う」という旨を(もうちょっと過激に書いてしまいましたが)書き込みました。すると少数の方ですが「偽善だ」とか「エセヒューマニスト」という意見が返ってきました。

私はそれほど不寛容な性質ではないつもりですが、それにはものすごく反発を感じ、「そこまで価値観のベースが違う人とはお話し合いができません」と書いて、すぐに議論を停止しました。

一つには、いつものようにマスコミのせいがあるでしょう。ミャンマーの映像は流れますが(それは当然だと思いますが)、アフガンの現状、誤爆で犠牲になった人々、家族の悲しみ・・・そういう活きた映像は流されません(私はテレビをほとんど観ないので、もしかしたらどこかで放送されているのかもしれませんが)。日本が加害の一端を担っているのに、その国の様子は報道されない。これは戦争をしている国家に特有の情報の選別でしょう。何度でも言いたいのですが、日本は平和な国ではありません。「戦争ができる国」になりそう・・・でもありません。現在すでに戦争中の国です。

せめて、書物やこころある記者の筆、中村さんなど現地を知る人の講演等で、少しずつでも真実が伝えられていくことを祈ってやみません。


2007-10-08 10:00  nice!(0)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 8

女衒の辰

「戦争支援をやめる時」拝読させて頂きました。正に此処に書かれているとおりです。

中村哲さんに関して、皆さん既にご存知とは思いますが、「ピースウォーク京都」主催、「京都ノートルダム女子大学」後援で【アフガニスタンからの報告・中村哲さん講演会2007】が11月25日13:30開場・入場無料で京都ノートルダム女子大学ユンソン会館で行われます。

是非時間の許す方々は会場にお出掛け頂ければ幸いです。

小生旅行中でお話を聞きに行けないのが大変残念です。

行かれた方は、後日情報提供頂ければ幸甚です。
by 女衒の辰 (2007-10-08 11:08) 

wakuwaku_44

今のアフガン情勢は、米英軍の空爆を止めさせても、非軍事活動への襲撃や略奪の問題がありますから、残念ながら、人道支援を行うにも100%非軍事というわけにはいきません。ISAFへの参加は、今以上に武装を強化された状態でなければ、はっきり言って危険極まりない。

とにかく、まずは武装勢力の武装を解除し、襲撃やテロをなくさないと話にもなりません。この状態での非軍事支援は、ザルで水をすくうようなものなのです。

カンボジアのときのように、日本が仲介役となって東京で各武装勢力が集まった会議を開催するのがいいと思いますね。ただ、本当に武装解除をしたかどうかを確認しなければなりませんから、これを第三者的な立場で確認すべきでしょう。このミッションは、抵抗して武力攻撃を受ける可能性も考慮しなければなりませんから、その意味では自衛隊の派遣は必要となりますが、武装解除が確認できれば、もう自衛隊は派遣する必要はありません。

非軍事の支援活動は、アフガン情勢の変化に関係なく、これは強化すべきです。医療福祉、給水、食糧、学校、道路、水道、電気等はもちろん、警察消防も整備されるまでは時間がかかりますし、雇用の問題も短時間では解決しません。自衛隊の派遣が終了しても、これらは引き続き継続していかねばなりません。これらは、政府だけでなくNGO支援も含めて、大々的に行うのは大賛成です。

しかし、アフガンの現状は、医薬品、食糧、水は、武装勢力にとって「宝物」でしかない。そこに丸腰で何の防御体制もとらなければ、「安心して襲撃して略奪する」という事件が頻繁に起こることは容易に予想できます。

従って、アフガン難民に感謝され喜ばれる支援というのは、「非軍事をメインにして、自衛隊はそのサポート」という位置づけでの総合的な支援だというのが妥当なところだと考えられます。
by wakuwaku_44 (2007-10-08 14:55) 

mai

>女衒の辰さん
情報提供、どうもありがとうございます。先のことなので行けるかどうかわかりませんが、ぜひ一度お話を伺ってみたいものです。次あたりの記事でTM訴訟口頭弁論のお知らせをしますので、その時に一緒に本文中に取り上げさせてください。

>WAKUWAKU_44さん
体調不良のため、しばらく失礼していました。私はWAKUWAKU_44さんのご意見について、特に自衛隊の活動の是非について判断するにはまだ十分な知識を持っていませんので(ただ現行憲法下での自衛隊派兵は違憲という考えは変わりません。そして自民党案での憲法改正には反対です)、一つの見方として参考にさせていただきます。
by mai (2007-10-08 17:19) 

wakuwaku_44

maiさんへ

>体調不良のため、しばらく失礼していました。

ご無理なさらないように、季節の変わり目ですから、くれぐれもご静養してください。

私は改憲派です。しかし、自民党案には反対です。これが私のスタンスです。
また、国際貢献は非軍事がメインになるのは必然です。軍事活動は、あくまでも「非軍事の援助活動を着実に、確実に、安全に実施する」ために行うものであり、軍事活動がメインになってはいけません。

よく勘違いされますが、「自衛隊を派遣せずに、平和的に解決する」という方向性で全力を尽くすのは『当たり前すぎるほど当たり前』なのです。
紛争の解決や武装勢力の武装解除は、「自衛隊の派遣を必要としない」状態なのですから、「自衛隊派遣ありき」で考えるのは不適切であるとさえいえます。
それを前提にあえて派遣するというのは、「紛争停止や武装解除が実現するまでの一時的なもの」に過ぎないのであって、「できるだけ自衛隊を早く撤退できるようにする」という「引き際の計画」も当然なければならないし、それが実現できないうちは、まだ解決の道筋すらついていない、ということでもあります。

このあたりを、反戦運動の人たちは誤解しているのです。
by wakuwaku_44 (2007-10-08 21:31) 

mai

>WAKUWAKU_44さん
いつもありがとうございます。ご心配をかけましたが体調は戻りましたので、またこれまでのように(もう少しペースダウンするかもしれませんが)やっていきます。さて、この記事に関してこれ以上お話をするにはさらに私に深い知識が必要であり、どなたかがおっしゃていたように私にはいま議論よりもむしろ勉強が重要であると思います。失礼ですが、今回はWAKUWAKU_44さんとの議論は1回にさせていただきたいと思います。なお、マナーを守って書き込んでくださるのはけっこうですし読ませていただきますので、それは自由になさってください。
by mai (2007-10-08 21:47) 

wakuwaku_44

maiさんへ

ご丁寧なご対応、痛み入ります。
別に無理に議論はする必要などありませんし、maiさんの信条をどうしようとか、そういう気はさらさらありませんので、お気遣いなくお願いします。

maiさんに関しては、私は「反対側の立場から」述べているわけですけど、「なるほど、こういう壁にぶち当たることになるのね」ということを知っていただければ、と思っています。

「自衛隊を使わないと実効性も安全性も困難であることはわかっている。それでも、自分としては、自衛隊を使わないで対応する道を考えたい。」というのと「自衛隊を使わないと実効性も安全性も困難である。でも、そんなの関係ねぇ!」とでは、ぜんぜん違う。前者は議論のテーブルにのるということであり、後者は問答無用ですから。
私はmaiさんに前者であって欲しいと願っています。
by wakuwaku_44 (2007-10-09 10:00) 

wakuwaku_44

インド洋への自衛隊の派遣を考えるとき、アメリカよりもパキスタンを考えなければなりません。
なぜなら、日本が撤退して最も困るのはパキスタンだからです。

パキスタンは反米感情と親日感情がものすごく高い国民なんです。(イランも徹底した反米感情と非常に高い親日感情の国民ですね。)
それゆえ、「日本の給油艦から補給されている」ことは、パキスタン国民は「歓迎」なんですが、これが「米軍の補給艦から補給された」となれば、カラチはテロが頻発するほどの状況にもなりかねない。アメリカが日本のテロ特措法延長を求めているのは、パキスタンへの配慮なんですね。


maiさんはおそらく、ものすごく疑問を感じるでしょうが、日本が自衛隊を「派遣しないこと」に対して不満に感じる国があることをご存知でしょうか?

アメリカではなく、実は、東南アジアなんです。マラッカ海峡を含めたシーレーン防衛に関して、東南アジアは日本の自衛隊に期待したいんですね。
それどころか「日本と軍事同盟結べれば最高」と考えている方までいるんです。正直、私もたまげたんですけど、自衛隊に対するアレルギーは、中国、韓国、北朝鮮と日本国内ぐらいであって、他ははっきり言って気にしてない。
サンフランシスコ講和条約のとき、ソ連は日本の軍備制限を条約に盛り込むように主張しましたが、これに強硬に反対したのが、セイロン(スリランカ)だったりもします。(条約に反対したインドも、ソ連提案は「論外」だとか。もっとも、インドの反対はアメリカとの対立が理由で、日本とは「条約がなくても、国交回復しましょう」ですからね。)

でも、これってmaiさんが求める方向性に東南アジアを巻き込むチャンスでもあるんですよ。「軍事同盟締結したい」と求めるのは、それだけ信用がある、っていうことなんです。だからこそ「一緒に非軍事での活動をしよう」と呼びかけることができる。

「自衛隊反対」というネガティブなことじゃなく「非軍事援助連合をつくろう」とした方が、maiさんの運動は、それこそ国境を越えて広がると思いますけど、いかがでしょう?
by wakuwaku_44 (2007-10-20 00:01) 

東西南北

 wakuwaku_44や自民党と公明党が自衛隊を派兵・派遣するから問題になっているんですが。自衛隊を撤退させれば、みんなで仲良く非軍事の人道支援ができるんですけどね。

 自衛隊派遣・派兵には猛烈に反対していくことが国益なんです。人殺しをしながら人道復興支援はできないというのが中村哲さんの意見です。
by 東西南北 (2007-10-20 01:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。