SSブログ

おばあちゃんの悲しみ [戦争と平和]

このお正月には、身内のおばあさんとお話ししました。彼女はアルツハイマー病で、程度としては中等度になるでしょう。昨日聞いた話をすっかり忘れていたり、この10年以内に知り合った人の存在を覚えていないことがある・・・など、記憶障害がとても目立ちます。毎日決まったペースで生活していたら慣れた作業はまずまずできますが、例えばものの置き場所を変えたり、新しい事柄が加わると混乱してパニックになってしまいます。

ところが、アルツハイマーの方は一般にそうなのですが、昔のことは生き生きと覚えています。親や兄弟の言ったことや行動は詳しく正確に話してくれます。そして彼女は村の小学校を一番で卒業し、当時、地域でトップの女学校を卒業していて、田舎ものですがそれなりのインテリでした。そういう基本的な知性は残っていて、その時々の会話では、聞いている方がハッとするような示唆に富むことを言ってくれることがあります。

そういう高齢の方に話すにはシビアな話題ですが、私はつい、「最近、教育がおかしな方向に向かっているように思う」そして、「自分の子どもにどういう教育を受けさせようか、とても迷っている」ことをポロっと言ってしまいました。

私としては「そうかねえ〜」くらいの返答を予想していたのですが、驚いたことに「あたしは忘れっぽいから、せめて新聞でもと思ってよく読むようにしているけれど、あんたの言うように『妙(みょう)なことが書いてあるよ』と思うことが多いわ」と答えてくれました。本当は方言で話していて、そのまま書いた方が味があり、彼女の気持ちも伝わると思うのですが、その地方以外の方には読みにくいことと、個人特定につながると困るので、標準語に直して書きます。

「戦争が起こるような、あんな時代に戻らなかったら良いけれど・・・と心配している」とのこと。記憶障害がありますので、個々の記事を指しているというより、全体の雰囲気から、不穏なものを感じている様子です。「なんであんなヘンなことを書くのだろうと思う」。

そして、そうする彼女が経験した戦争前の様子を語ってくれました。「(彼女の)お兄さんが小学校に入るころに、学校で教えることがガラッと変わったね」「2歳下の私らの時には、もうそれは(教育内容のことです)できあがってしまっていたわ」。目に見えて変わる時はやっぱり早かったようです。教訓になります。

彼女は戦争で、その大好きだった兄を亡くしています。「おじいちゃん(彼女の父)は最初から乗り気じゃなかったけれど、兄は成績が良かったから、軍の学校を受けてみたらと先生に勧められて、『もし受かっても行かないこともできるから』と思って受けさせたら、合格してしまった。(難関でその地方から)3人しか合格しなかったから、担任の先生や村の人(村長さんか、役場の上の人か聞き漏らしました)が家へ来て『名誉なことだから、ぜひ進学させてやってください』と、家の敷台に頭をすりつけるようにして頼まれた」。「父は、『軍の学校はどうも・・・』と一回は断ったけど、また来て『どうか頼みます』と言われた。本人は真っ直ぐで純粋な若い者だったから『行ってもいい』と言って、父も『このままの情勢だったら、どうせ徴兵に取られるし・・・』とも思い、あんまり頼まれるものだから断り切れなくなって(兄を学校に)行かせた」。

それが運命の分かれ道で、彼女の兄は卒業後に訓練中の事故で亡くなってしまいます。敵との戦闘中ではありませんが戦死です。19歳の若さでした。

「おじいちゃんは、悔やんで悔やんで『わしがあの時、はっきりと断っていたら、こんなことにはならなかったのに・・・』と何回も言っていた。私らも『あの時、何とかならなかっただろうか』と思ったね。家族みんな、一生後悔し続けたわ」。

ちなみに、おじいちゃんはごく一般の庶民でしたが、「今度の戦争には、どうも勝てないだろう」と当初から(もちろん家族にこっそりとですが)言っていたそうです。普通の国民にもわかるくらい無謀な戦争だったのですね。彼女の兄の小中学時代の同級生でも徴兵されて亡くなった人もかなりいます。しかし、軍の学校の同級生で無事に生を全うした人、さらに現在も存命で仏壇にお参りに来てくれたり、年賀状を交換している人もいます。彼女は、そういう同級生からのコンタクトに対して、ありがたいという気持ちと、兄は亡くなったのにという気持ちとで複雑な心境のようです。

「そういう痛みがわからん人が増えてきているのだろうか。新聞みても、『こんなこと・・・』とびっくりするようなことが時々載っている。身内が亡くなったりしていないと、わからないのかねえ」。

そして、私の子どもの教育について、「まだ自分で判断する力がないのだから、親がどっちを向けてやるかが大事よ」と言い、平和や自由を重視する教育を受けさせたいという私の気持ちを理解してくれました。「あとで、こうしておいたら良かったのにと後悔しないようにしなさい」。

彼女は病気のために、第二次世界大戦の前と現在とを少し混同しているのかもしれません。しかし、いまのおかしな空気をとらえる力は確かなもののように感じました。もしかしたら病気だからこそ、残された知性や感覚が鋭敏になっているのかもしれません。

現在の大きな問題は、彼女のように戦争のいやな臭いを嗅ぎ取れる人々が少なくなってきていることにあるように思います。「わしらには難しいことはわからんけれど、とにかく戦争だけはいかん」と言っていた、私たちの大先輩の世代が亡くなっていくことに悲しみと危機感を感じます。そういう庶民の声なき声が、戦後の戦争をしない日本を作ってきたと痛感します。

そして、教育について、私でも時々「流れにのった方がラクかな」と思ったりしますが(夫と言い合いしなくてすむし)、やはり私が良いと思う教育の場に子どもが入ってほしいし、おかしなことがあったら声を上げ続けなくてはならないのだと勇気をもらいました。

アルツハイマー病になっても、次の世代の行く末を心配しなくてはならない社会。安心して老いることさえできない。「やはり日本はおかしい」と確信を深めた一日でした。

<子どもの一言>
2歳くらいの時には、「おさかな→おさなかな」「おくすり→おすくり」などと、独特の言葉遣いをしていて、(親バカとしては)かわいかったのですが、さすがに最近は減ってきました。いま残って(というより親が残して)いるのは「おとうやん」「おかあやん」くらいでしょうか。

ところが最近、新しい言い方が登場。「・・・ずに」というところを「・・・なずに」と言っています。例えば「行かずに」を「行かなずに」、「言わずに」を「言わなずに」という感じです。幼児語には賛成ではありませんが、こういう言い方はちょっと嬉しい親です。ところで、「言わなずに」でドラクエの呪文「イオナズン」(いまもあるのでしょうか?)を思い出す私っていったい?? かつてかなりのゲーマーでした(^^;)




2008-01-03 22:37  nice!(2)  コメント(11)  トラックバック(1) 

nice! 2

コメント 11

ayu15

よい、悪いの判断でなく、体験した人の生の声聞いてその計り知れない苦悩を少しでも共感して、語り継いでいけたらと思います。
by ayu15 (2008-01-04 10:36) 

ご訪問・コメント・niceありがとうございました。
世の中の価値基準の中心がお金と物でしかない現代社会において、あなたのような方のやさしい一言が、何物にも代えがたい大きな励ましになります。

私は、このままだと中東あたりから、第三次世界大戦が起こるのではなかろうかと、強く危惧しています。
by (2008-01-04 15:13) 

mai

>ayu15さん
今年もよろしくお願いします。そうですね。まず知ること。できるだけ先入観を排除してありのままの体験を聞くことが大切でしょうね。ちょっと前にTBもいただきありがとうございます。

>shinwaさん
困難な状況のようですが、負けずに頑張ってください。第三次世界大戦が起こったら地球はもたないかもしれません。人類の賢さを信じたいのですが・・・。
by mai (2008-01-04 19:40) 

薩摩長州

ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

新年冒頭から胸の熱くなる記事を読ませていただきました。時代の大きな転換点に生きたかたの言葉は重いですね。まさに生き証人ですね。私らは(ある時代ともに学んだもの達を含め)理屈の上で再び戦争はあると考えているし、現実に生起するさまざまな政治・経済を軸とした事象はそれを裏付けているようにおもいます。しかし、やはりそうした過程をかつて経験し、いまそれを刻み込まれた悲しみをもって肌で感じる方々の言葉は、1000の理屈も及ばない。まさに、「ここがロドスだ、ここで跳べ」なのかもしれません。
でも、まだ時間も、チャンスもあると思っております。そして、できることも。
皆でつどうこと、皆でかんがえること、皆が出来ることをまずは小さな事でもしていくこと。私もそうした皆の一人でありたいとおもいます。本年もよろしくお願いいたします。

テンプレかわりましたね、冬バージョンですか。すっきりしていて好感。プロファの猫さんの写真はうちのうりによく似ております。のんのはだいぶ元気を取り戻しました。
by 薩摩長州 (2008-01-05 01:03) 

女衒の辰

ブログの雰囲気ががらっと変わりましたね。

凄く明るくなったように思います。季節感も溢れていてとっても素敵です。
by 女衒の辰 (2008-01-05 01:38) 

mai

>薩摩長州さん
今年もよろしくお願いします。私にもっと筆力があれば、さらに生き生きとした文章が書けたのでしょうけれど。読みにくい記事に感想をいただきありがとうございます。

「まだ時間もチャンスもある」というお言葉には勇気づけられます。安倍氏退場後、こころなしか、周囲の人の「9条」を見る目が優しくなったように感じます♪

心機一転、冬バージョンにしました。実は昨冬もこれにしていて気に入ってます。ずっと使えないのが難点ですが。のんのちゃん、良かったです。薩摩長州さんの手厚い看護が良かったでしょうね。
by mai (2008-01-05 15:02) 

mai

>女衒の辰さん
気に入っていただけて嬉しいです。薩摩長州さんにも書いたように、昨冬からのお気に入りバージョンです。気持ちの余裕がなくて直せず、ずーっと気になっていたキャプション(タイトルの下の紹介文やプロフィール文)も新年を機にやっと更新しました。今年もいろいろ教えてください。
by mai (2008-01-05 15:05) 

志村建世

衛星放送の「未来への提言・学力世界一・フィンランド」を見ました。その最後にも、自分の価値観を次の世代に伝えるのは、現役世代の義務だという言葉が出てきました。「負けなずに」がんばりましょう。
(負けずにと、負けないでが、ごっちゃになったんでしょうか。かわいいですね。)
by 志村建世 (2008-01-05 18:33) 

mai

>志村さん
ありがとうございます。衛星放送で再放送していたのですね。フィンランド関連の本やTVを見ていると素敵な言葉がたくさん出てきますね。子どもの教育を大人世代全体の責任と捉えているようです。「市民社会の構築には信頼とある種の柔軟性が欠かせない」などという言葉も好きです。「負けなずに」。使っていただきありがとうございます(笑)。
by mai (2008-01-06 17:48) 

tamara

maiさん、このブログの背景なつかしいです!!
教育基本法改悪されたときを思い出します。「あんころ」を通してmaiさんと知り合ったのでしたね。
その後の1年の大変だったこと・・。
私もそろそろエンジンかけなくちゃ、と思っていますがなかなかかかりません。今年もよろしくお願いします。
maiさんの猫ちゃん、やっと見ることができました♪
猫ちゃんにもよろしく。
by tamara (2008-01-06 19:26) 

mai

tamaraさん
子どもの新学期が始まると、親まで少し慌ただしくてお返事遅くなりました。この子が「まい」です。よろしくお願いします♪(下手な写真ですが)。この背景、覚えてくださっていて、ありがとうございます。tamaraさんと知り合ったころのものでしたね。
昨日は、初めて教育委員会の傍聴に行っていました。感想は・・・う〜ん、期待はしていませんでしたが、内容に乏しいですね。単なる報告会+役に立たない感想をぼそぼそと述べるという感じでしょうか。
学力テストで全国とうちの県の比較(数字で)、「ここが弱い」という簡単な指摘、各校に学力向上策を作らせること(ああ、これで先生方の仕事がまた増える)。各自治体の成人式のやりかたについての報告。
つくる会の教科書を使用しないでほしいという請願(←これがあったので頼まれて行きました)については、「各自読んでおいてください」でおしまい。実のない会議でした。
こんな教育行政に子どもを託したくないとさらに実感しました。
by mai (2008-01-08 10:50) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。