イラク人医師の話を聞いて [イラクを考える]
前の記事で(情報として決して十分ではありませんが)アフガニスタンについて取り上げましたので、もう一つ日本が「参戦」しているイラクについて、聞いてきた話を書いておきます。6月の会でのことで、書きたいと思いながらのびのびになっていました。記憶が薄れているところもあるので、ノートを見ながら、メモとして記してみます。
お話ししてくださったのは、イラク人の若い医師であるシャキルさんです。シャキルさんはバグダッド生まれで30歳過ぎ。イラクの大学を卒業して医師になりましたが、義弟やおじが今回の戦争の犠牲となり、後述するように医師など知識人の暗殺が多発するなか、親族の勧めもあってヨルダンに行き、ヨルダンを経て日本に来られました。現在は日本の大学の医学部博士課程に在学中です。
ヨルダン滞在中にイラクの医療・人道支援NGOの事務所開設に尽力。日本では学業のかたわら、所属NGOの日本の支援団体の活動に積極的に関わっています。イラクと日本のかけ橋として、医師の視点からイラク情勢を報告する講演活動も精力的に行っておられます。
以前から何回か取り上げた「憲法9条・メッセージ・プロジェクト」の第8弾「イラクの現実を見て!」というブックレットにシャキルさんのお話は載っています。私はそれを読んでいたのですが、実際にお話を聞くとさらに臨場感があり、イラクの置かれているたいへんな現状が実感されました。
憲法9条・メッセージ・プロジェクトのHPです。HPからこのブックレットも購入できます。
・イラクの地図を示されました。北にトルコ、西にシリア、レバノン、東にイラン、南にクウェートに接しています。日本の自衛隊が派遣されたサマワはバグダッドの南300kmのところです。
・Why US decided to attack Iraq?
Bush claimed the following
1. Mass destruction weapon
2. Relation with AlQaeida
*お話やスライドは英語でした(ボランティアの通訳付き)。とても流暢な英語でしたが、ネイティブではないせいでしょう。ネイティブスピーカーと比べるとずいぶん聞き取りやすかったです。
・シャキルさんは訴えます。
Iraq did not invade America. Why America decided to invade Iraq?
Iraq and Japan shared a trade partnership for a long time, however Japanese government supported American army.
・Bushは「イラクにdemocracyをもたらす」と言った。しかし、実際にはpainful 7Dsをもたらした、
Painful 7Dsとは・・・
1. Death!
イギリス(だったと思います)の情報会社Opinion research businessによれば、イラク戦争の死者は100万人に及び、その原因はgunshot wound 54%、car bomging(自動車爆弾)22%、aerial bombardment(空爆) 10%、accident 7%、another 7%
アフガニスタンで市民が亡くなる原因は誤爆が多いようですが(あと、飢餓、凍死、感染症など)、イラクは様相が異なっている印象です。
知識人の暗殺
これは日本ではあまり報道されていないことではないでしょうか?(私は知りませんでした)何物かによる知識人の暗殺が相次いでいて、これまでに400人以上が殺されたそうです。バグダッド大学の総長、シャキルさんが教わった耳鼻科の教授、シャキルさんの同僚・・・。暗殺された方の2/3はPhDを持っていて、あとは医師や大学の教職にある人が多いそうです。
暗殺された人のプロフィールを集計してスイス(だったと思います)の学会で報告した方も、帰国後暗殺されたそうです。ある医師は病院で診察中に押し入ってきた何物かに射殺され、ある教授は帰宅した家の前で殺され・・・とにかく時と場所を選ばないやり方だそうです。シャキルさんの知り合いだけでも11人の医師が暗殺されたそうで、そういうこともあってシャキルさんは国外へ出られました。
医師がどんどん国外へ出ていくなかで「もし今、僕がここを去ったら誰が患者をみるんだい?」と言って、国内で頑張っている友人もいるとおっしゃっていました。
2. Detainment(拘禁)
拘禁された人も多数います。悪名高いAbu Ghraib(アブグレイブ:バグダッドの近くにある収容所)では、拘禁された人を全裸にしたり、獰猛な犬をけしかけたりという証拠写真が米軍兵士によって撮られて公表されています。捕虜に対して国際法に違反する行為です。子どもも「テロリストの可能性がある」ということで子どもの拘禁も3000人に上っているそうです。
3. Deeping the sectarian difference(宗派分裂の深刻化)
民兵組織が武力行使をするようになりました。シャキルさんのおじさん、いとこの夫、友人など民兵組織に殺された人は数え切れないです。そういうことはイラク戦争の始まる2003年以前には全くなかったそうです。
4. Displaced people
イラク国内外への避難です。UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)の調べによれば、イラク国外(国内は含めず)へ避難した人は250万人で内訳はシリア55%、ヨルダン28%であとは他の国だそうです。シャキルさんの妹さん一家もヨルダンに避難しましたが、職を求めて単身イラクに帰国した夫は自動車爆弾の爆発に巻き込まれて亡くなってしまいました。その時、妹さんが妊娠中だった子どもの顔を見ることもできずに・・・。
5. Delivery of AlQaeida & terrorism
2003年以前はかなり平穏で国境線には警備兵もいないくらいだったそうです。いまでは、日本の方もご存知のように内紛が絶えません。すぐ上で書いた義理の弟さんもその犠牲者です。
6. Deprivation of human right(人権剥脱)
以前はごく少なくなっていたhonor killing(名誉殺人)が増えてきているそうです。horor killingとは、イスラムの教えに則って、婚前交渉や不貞行為をした人を一族の「名誉」のために、親族が殺すというもので、これもイラク戦争が始まるまではほとんどなくなっていたそうです。
7. Deseases and disability(病気と障害)
これは言うまでもないでしょうね。
〜〜〜
As a result-Irag left with
死者約100万人
難民400万人
未亡人80万人
孤児400万人
米兵の死者4100人
〜〜〜
質疑応答で、フセインは悪い指導者であったか?という質問に対して、シャキルさんは、「彼は独裁者でした。言論の自由はなく、政権の批判は許されませんでした。しかし、核兵器は持っておらず、アルカイダとのつながりもありませんでした」。さらに、内政的には(政権批判を除けば)比較的自由で平和が保たれていて、女性の権利もかなり高かったと述べました。
フセインが正しい、特に西洋的な意味で民主的な政治家だったとはとても言えないでしょう。しかし、イラク戦争によってフセインが排除されたかわりに、イラク国民(さらに死亡や負傷した米兵)は何倍もの苦難の道を歩むことになりました。攻撃側の一員として、日本もこの国の常套手段であるあいまいで忘れっぽい態度は許されません。イラクで起こったこと、そして今後のイラクについて、日本人全員がもっと知らされ、知る努力をすることから始めるべきでしょう。
本論からは離れるのですが。
ネイティブでない人の英語が、とても聞きやすいのは常に経験するところですが、国際言語のあり方を示していると思います。新しい共通言語(エスペラント)を採用するのは、面倒なことではなくて、どこの国の人にとっても、非常に容易で便利だろうと思います。
ネットで世界の人とエスペラント通信したら、面白そうですね。
by 志村建世 (2008-09-03 21:47)
>志村建世さん
コメントありがとうございます。志村さんのご著書のおかげで、まだ勉強はしていませんが、エスペラント語に興味を持つようになりました。誰にとっても母語でない言葉を共通言語にすることは、言語によるハンディが少なくてよいですね。教育はEDUKADO(えでゅかーど)だそうですね。多少、西洋の言葉(educationなど)を下敷きにしているのでしょうか。
by mai (2008-09-03 22:27)
本来こういう話はわざわざ機会を探さなくてもフツーにTVや新聞や雑誌で流れるべきもののはずなんですが、ここいらへんに日本の商業報道への不満があります。
by shira (2008-09-07 14:32)
>shiraさん
コメント&nice、どうもありがとうございます。おっしゃるとおり、今回のお話は私たちの予備知識のレベルを考えて、イラク戦争のデータ・入門編という感じで語ってくださったと思います。こういう情報すら閉ざされているところに、不気味さを感じますね。「自爆テロで○人死亡」などという顔のない記事ではなく、イラクの姿をそのまま伝えてこそ報道記者の心意気でしょうに・・・。
by mai (2008-09-09 14:00)
今サマワは日本人は許可証ないと入れません。他の人は入れるのに。
なにか隠してるんでしょうか???
by ayu15 (2009-06-11 20:41)
ayu15さん、情報ありがとうございます。気にはなっていますが、その後、イラク問題はフォローできていません。何かあるのでしょうか??またアンテナ張ってみます。
by mai (2009-06-11 22:32)
先日イラク帰りのジャーナリストのお話ききました。それきいてイラク関連また書きました。
サマーワのことはその方から聞きました。許可うけられるメディアは当局の希望する項目以外の取材はできないそうです。
by ayu15 (2009-06-12 09:49)