SSブログ

週刊 医学界新聞の連載から [福祉国家へ]

医学書院という出版社から「週刊 医学界新聞」という出版物が出ています。この出版社は名前の通り、医学書を中心に発行する会社で、政治色はまずありません。「週刊 医学界新聞」も読者対象は医療従事者で、どこでどういう医学会があったとか、どういう新技術が開発されたとかいう話題が主です。私は時々目にする程度なのですが、政治的な論評が載っているのは記憶にありません。

そのなかに李啓充さんという医師で作家(在ボストン)の方が書いている「続 アメリカ医療の光と影」というコラムがあります。今回で126回目という長く続いているもので、これまでアメリカの尊厳死問題や中絶の賛否について読んだことがありました。しばらくこの新聞そのものを見ていなかったのですが、先日目にしたコラムのタイトルに驚きました。「緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療・7」でした。1〜6まで読んでいませんので、流れが十分につかめていませんが、今回、共感するところが多かったので紹介します。

*************************************
前回、「小さな政府」路線が、1.経済成長を実現しなかっただけでなく、2.先進国中で最悪グループに属する富の偏在をもたらしてきた事実を示したが、こういった「失敗」の厳然たる証拠があるにもかかわらず、政府も財界も、「小さな政府」が失敗しているとは考えていない。それどころか、小泉政権以降の「改革」は着実に成果を上げてきたのだから「小さな政府」路線はますます強化されなければならない、と主張している。

「財界一人勝ち」のカラクリとは
 彼らが、失敗の証拠にもかかわらず、なぜ、「小さな政府」と「改革」に固執し続けるのか、その理由を図(まい注:今回は省略します。写真で撮ってあとで載せるかもしれません)にまとめたが、小泉政権発足以来、企業の(税引き後)純利益が凄まじい勢いで増加し続けていることがおわかりいただけるだろうか?ここ10年間の日本の経済成長率がOECD加盟国中最低であることは前回も述べたとおりだが、国全体の経済という「パイ」の大きさはさほど変わっていないのに、財界は、自分たちの取り分だけは着実に増やし続けてきたのである。しかも、「パイ」の取り分をどうやって増やしてきたかというと、主に、「人件費」を減らすことで(即ち、勤労者の「パイ」の取り分を減らすことで)達成してきたのである。
 言葉を換えると、今の日本は、「財界一人勝ち体制」になっていると言っても過言ではないのだが、財界関係者を経済財政諮問会議民間議員に据えるという形で、プライベート・セクターの人間(=利益団体の体表)にパブリック・ポリシーの根幹を決める権限を与えてきたのだから、こういう結果になったのも当然だろう。政府も財界も、「小さな政府」と「改革」をあたかも自明の公理であるかのように唱え、医療費を含めた社会保障費を抑制し続けてきたが、その本当の目的が「国家レベルでの人件費削減(=社会保障費の事業主負担軽減)」を断行して企業の利潤を確保することにあったことは、図からも容易に読み取れるのである(まい注:小泉政権が発足した2001年に-0.09%であった「GDPに占める企業純利益の割合」はどんどん上がり、2006年には5.53%になっています。反対に、「企業付加価値に占める人件費の割合」は正反対に下がり、2001年75.1%が2006年には69.3%になっています)。

医療崩壊を加速する「持続可能な医療制度への改革」
 翻って日本の医療の現状を見たとき、いま、日本の医療が崩壊の危機に瀕していることを否定する医療者はいない。日本の医療がここまで追いつめられた根本原因が、積年に及ぶ医療費抑制政策にあったのは言うまでもないが、皮肉なことに、「小さな政府」派の人々が、「医療費抑制」の同義語として好んで常用する言葉が「持続可能な医療制度の構築」である。実は、この間、彼らが「持続可能な医療制度への改革」を実施するたびに、医療崩壊への流れが激しさを増してきたのだが、日本の医療を崩壊から救い、本当に持続可能なものとするためには、まず「小さな政府」派の人々によるところの「持続可能な医療制度への改革」を止めさせることから始めなければならないのである。

乱暴極まりない政策に終始
 本シリーズの冒頭に、大嵐(=高齢化が進み医療の必要度がますます高まる時代)の到来を前に堤防(=医療費)を削れば、無数の犠牲者を産み出すだけだと書いたが、日本の医療はすでに堤防の決壊が始まっているというのに、政府も財界も堤防を削ることを止めようとしない。たとえば医師不足や医師の過重労働という喫緊の問題にしても、「財源の付け替え」による姑息な手段しか講じることしかできずにいるのだが、決壊部分に応急処置を施すために堤防の他の部分を削って土を持ってきたからといって、ちっとも嵐に対して備えたことにはなっていないことがわかっていないのである。本当に嵐に対して備えたいのであれば、まず、「どうしたら堤防が強化できるのか」という観点から知恵を絞り、そのうえで、必要なコストの手当を考えるのが本筋だろうに、「小さな政府」の呪縛の下、相も変わらず「初めに医療費抑制ありき(=何が何でも堤防を削る)」という乱暴極まりない政策に終始しているのだから呆れざるを得ない。       (この項つづく)

*************************************
いつも冷静な文章を書かれる李さんですが、かなり怒っておられます。私も同感です。医療従事者、特に医師の支持政党と言えば自民党が定番だったのですが、この2〜3年でかなり変わってきているようです。医系議員では、この前の参院選で自民党から立候補した武見氏が落選し、国民新党の自見さんが当選しました。さすがに社民共産を支持する人はまだ少ないようですが、民主党や国民新党にだいぶ移っているようです。

民主党の櫻井充さん、社民党の阿部知子さん、共産党の小池晃さんなど、医師出身の議員さんたちに頑張っていただきたいです。


2008-04-30 12:49  nice!(2)  コメント(6)  トラックバック(1) 

nice! 2

コメント 6

ayu15

医療者にいわすと、政府の政策が問題だそうです。
by ayu15 (2008-04-30 15:20) 

shira

 ぼちぼち「改革」という言葉も飽きましたね。要はただのリストラなんですから。
by shira (2008-04-30 20:12) 

志村建世

よいものを読ませていただきました。この「企業を強くする」大義名分が「国際競争に生き残るため」でした。そしてそのグローバル化がアメリカ企業の圧力に由来するものでした。アメリカ医療の影の部分も「小さな政府」主義の結果ですから、アメリカにいると、日米のつながりが、よく見えるのでしょう。自由放任の資本主義は人間を幸せにしないという、世界的な問題ですね。
by 志村建世 (2008-05-01 00:18) 

mai

>ayu15さん
そうですね。2年に1回の診療報酬改定で、毎回毎回引き下げをしていましたね。赤字医療機関もずいぶん出ています。

>shiraさん
私も政治に興味を持つ前は「改革とはムダな部分を省き、全体として良くすること」かなと思っていましたが、どうも違うようです。確かにリストラですね。しかも、本来は厚くしてほしい社会福祉や文化関連に厳しいリストラです。

>志村建世せん
ありがとうございます。筆者が在米の方なので日米同質のものを感じるのでしょうね。教育再生会議や文科省の文章に「国際競争力をつける(維持する)」という言葉がたくさん出てきます。いま、読んでいる本で教育者の遠藤豊さんという方が「60年代以来、日本は教育を産業や経済に従属させる道を選んだ」と考察しておられます。その通りなのでしょう。遠藤さんの文章については近々書きたいと思っています。
by mai (2008-05-02 17:10) 

下司孝之

その李先生だと思うのですが、李先生は高知医療センターの4年前の開院のときに高知に来られて、同級生だった瀬戸山院長を諌めていました。

PFI方式という経営と医療の二頭立てを吹聴する瀬戸山さん(収賄で裁判中)に違うよと、嗜めていました。

高知のような経済力のない県はキューバの医療があっているように思いました。
この2月、キューバの医療を拝見しましたが、金を使わなくても78歳の平均寿命、幼児死亡率はアメリカより低いのは立派です。
見聞記「キューバ紀行」は『サロン金曜日@高知』でしょうかいしておりますのでお閑の節はお立ち寄り下さい。

by 下司孝之 (2008-07-01 22:52) 

mai

>下司孝之さん
訪問していただき、どうもありがとうございます!李先生と瀬戸山院長の話、そうだったのですか、初めて知りました。

私は医学とは別の方面(橋など公共機関の管理)でPFIという手法を勉強したことがあり、イギリスであみだされて民間活力をうまく利用し効率的な運営ができると、良いことずくめのように紹介されていましたが、何となく直感というのでしょうか、医療・教育・福祉など社会保障的分野には向かないような気がしていました。高知医療センター方式についても当初から(これまた何となくですが)、そんなに素晴らしいとは感じなかったことを思い出します。

キューバはゲバラ氏の娘さん(医師)が最近、日本に来られたようですね(勘違いだったら申し訳ありません)。キューバ紀行は6まで拝見しました。アルコール中毒があるか、ないかという問答など興味深いです。日本では国が地方を大事にしないいま(銀行だったら不良債権処理に税金を投入するくせに、困っている夕張市にはかなり冷たいですよね)、地方は地方で衣食住、そしてできれば医療も自立したいですね(当地でも、最近、そういう話題が出ていました)。

キューバ紀行はまた近々拝見します。今後ともよろしくお願いします!
by mai (2008-07-02 15:28) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。