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名古屋大学教育学専門の植田教授インタビューです [教育基本法]

会の通信第二号として、日曜日に新聞折り込みで配布したものを載せておきます。
植田先生は教基法反対の人ならたぶんみんなご存知の教育基本法「改正」情報センターの中心メンバーでいらっしゃいます。
タグに不慣れで読みにくく、しかも長文ですが、よろしかったら目を通してみてください。
けっこう内容は濃いかなとちょっと満足しています。
2〜3日かけてもう少し読みやすいかたちにしたいと思っています!

<インタビュー>

名古屋大学大学院教育発達科学研究科
副研究科長(教育学部副学部長)・教 授 
植田 健男氏

教育基本法「改正」の先に見えるのは、教育と所得の格差が広がる息苦しい社会です  

教育基本法の改正に疑問を持つ普通の市民や保護者が活動している本会には、
通信第一号の発行後、「なぜ政府は急いで改正しようとしているのか?」
「改正しようとする真の意図は何なのか? 教育現場に問題があるためだけなのか?」 という質問をいただきました。 そこで第二号では、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授である 植田健男さんに、今回の改正の動きの背景および 改正後に予想される社会の変化について語っていただきました。 「教育基本法の話はどうも難しくなりがちで・・・」と言いながらも、
穏やかな中に熱意溢れる口調で、わかりやすく説明してくださいました。 -----先生は改正反対の立場でさまざまな働きかけをされているのですが、
まず始めに少し、先生と教育基本法との関わりについてお話いただけますか。 植田 私の専門分野は、教育経営学です。「経営」といっても企業などの経営とは ちょっと違っていて、「公教育、主として学校教育をどのように組織・運営するのか」 ということなのですが、その大前提が現在の教育基本法なのです。 前文に始まって、一条(教育の目的)、二条(教育の方針)、六条(学校教育)、 十条(教育行政)という流れが重要ですが、
特に、第十条一項の「教育は、不当な支配に服することなく、 国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」
という精神は、私の学問の出発点となる重要なものです。  私個人について言えば、 高校二年生の時に、新聞の夕刊で教育基本法制定25周年の特集で全文を読んだのが、 教育基本法との出会いでした。 その理念に感心するとともに、当時の自分の学生生活と突き合わせてみて
「教育基本法の理想は、全然、実現されていない」と感じました。 その意識が、今の研究生活の原点となったと言えます。 改正の背景にある「公教育スリム化」論 -----先生がそれだけ大切にされてきて、戦後教育の支えとなったと言われる教育基本法が
いま変えられようとしています。衆議院では与党のみの単独採決、 参議院でも数の力で与党が押しています。
私たち市民からみれば、とても性急な動きにみえるのですが、
なぜそれほどにまでして改正をしたがっているのでしょうか。 植田 改正を求める動きが本格化したきっかけは、 1990年代半ばに経済界からの要請によってスタートした「教育改革」です。
それは「公教育のスリム化」論と言われるものですが、
簡単に言えば、上位三割の子どもたちにはたっぶりと教育費をかけて エリートや高度専門技術者に育ってもらおう、
しかし、残りの七割については教育内容を削減して最低レベルの教育でいいではないか。
そうすることで、エリート教育は確保しつつも、 国全体の教育費を削減しようというのがねらいです。  経済界は、公的規制や国の支出を最少にする「小さな政府」を求めていますから、 教育費削減もその一環と言えます。
つまり、「教育費のムダ使いを減らせ」というわけです。 ----でも、国民の教育レベルが下がってしまえば、 若者を雇う側である企業にとっては痛手ではないですか。 植田 経済界は「もはやこれまでのように、 学校を卒業した若者全員を雇うことはしない」と断言しています。 優秀な三割は正社員として雇用して、自力でどんどん技術開発をしてもらう。
残りは「柔軟活用型」の労働力で良いと言います。 「柔軟活用型」というと良いもののようですが、 企業にとって「柔軟に」雇用調整ができる、 つまり不安定な立場に置かれる 非正規雇用者やフリーター型の労働者のことです。 「柔軟活用型」の人にはこれまでのような教育はいらない、 為政者の言うことがわかる読み書き程度でいいのではないかという発想です。  1960年代以降、日本は高度経済成長をしてきました。 その基礎に教育の力があったことは明らかです。 ある意味では、教育の機会均等が前提になっていて、 日本全国どこに住んでいても一定レベルの教育が保障され、 同一の教育内容について全ての子どもたちが競い合う。 そうすることによって国民全体の教育レベルは上がり、 企業としても当時の工業化を支える、質の高い労働力を得ることができました。 ですから、高度経済成長時代には経済界もそういう教育のありかたを歓迎していました。  ところが、社会主義国の崩壊以来、世界の市場が爆発的に広がって 「経済のグローバル化」の波が押し寄せてきました。 そのなかで、世界各国との競争に勝ち抜こうとすれば、 日本の労働者の賃金の高さがネックになります。 当時、日本の労働者の賃金の平均は4万ドルを超え、 世界的にみても高水準に達していましたので、 「良い製品はできても、コストが高くついて価格競争には勝てない」というわけです。  そこで、こうした高度成長期のような産業ではなく、情報通信産業や金融など それほど多くの人手を要しない産業に移行しようということになりました。 そうなると正規雇用者はそれほど必要なくなるので減らそうということになり、 現実に、すでに派遣や請負のような不安定雇用が急速に広がりつつあります。  そういう政財界の考えから「二十一世紀日本の構想」懇談会(座長:河合隼雄氏)が 設置されました。その最終報告では当時の小渕首相に 「初等・中等教育は教育内容を五分の三程度まで圧縮し、義務教育は週三日に」と 提案しています。 そして、2000年には「教育改革国民会議」(座長:江崎玲於奈氏)が発足し、
教育基本法「見直し」が提言されました。 2004年に自民党・民主党有志による「教育基本法改正促進委員会」が 設立されることによって改正への動きが現実のものとなりました。 愛国心や道徳で荒れを押さえる ----その間、文部省、いまの文部科学省は教育を守る立場から反対できなかったのですか。 植田 文科は政財界からの圧力に対して、防戦一方といって良いでしょう。 省の権益はできるだけ守ろうとしていますが、 限りない譲歩を強いられているのが実状です。  この間、批判を浴びてる「ゆとり教育」も先のような 教育内容削減の先駆けと見ることができます。 ゆとりを持たせて良い教育を生み出そうというよりも、 ただただ教育内容の中抜きをしたという面が強いです。  そして、現政権の教育構想にとっては、やはり現行の教育基本法は 根本的になんとかしなければならない邪魔物なのです。 教育基本法では教育行政の役割を、教育の「条件整備」に限定していて、 教育内容や予算配分への介入は原則的には禁じられています。 この法律がある限り、政府の思うままの教育にすることはできません。 ですから改正しようというわけです。  さらに、政府は教育のなかに市場化原理を持ち込んで、 「より成果を上げた学校や教員にはたくさんのお金をあげましょう」 という方針を打ち出しています。 こういうふうに何でも競争させ、勝ったところはより栄え、 負けると潰れても仕方ないという考え方を「新自由主義」 というのですが、教育や医療・福祉など、 本来そういう考え方がなじまない分野にまで 市場競争の原理を導入しようとしていて、 現に、すでに着々と政策が実施されています。 ----政府の改正案では愛国心や規範が強調されていますが、 そのあたりと関連してくるのですね。 植田 高度成長期には、完全雇用と終身雇用が大前提となっていました。 つまり、頑張ったらそれに応じて必ず職が得られ、 その職でずっと生計を立てていける。それは良い面ばかりではなかったのですが、 少なくとも子どもたちは勉強すればご褒美があったのです。 「とにかく頑張ったら、きちんとした職に就ける」という気持ちにして、 意欲を与えることはできました。  それが崩れて政財界の構想のように半数以上の若者が正規雇用されず、 不安定な立場に置かれるとなると、当然、国民の心は荒廃し社会不安が予想されます。 それを押さえるための方策として愛国心やさまざまな規範が強調されています。 つまり「非正規雇用でたとえ職がなくても、 国を愛して道徳を守って耐え忍んで生きなさい」ということなのです。  教育基本法が「改正」されると、学習指導要領はもとより、 学校教育法など教育に関する下位法もどんどん「改正」されます。 その先に見えるのはこれまでお話ししたように、 教育や所得の格差はさらに広がり、多数の人にとっては夢や希望を持てなくなり、 政府の貧困な価値観・人間観を押しつけられて生きるしかない息苦しい社会です。 「教育は国民全員の権利です」 ----何だか私たちが考えていた以上にたいへんなことになりそうですが、 市民としてはいま、何ができるのでしょうか 植田 教育というのは国民全員に保障された権利であり、 教育費を削減するのはダメだということを一人ひとりが再確認して、 声を上げて欲しいと思います。  教育基本法が「改正」されると大半の国民に直接的な被害が及びます。 税金だけは取られて、それが自分たちの子どもたちの教育には 十分にまわらないという事態が起こります。 それが国民にばれる反対運動が高まってしまいますから、 みんなが良く知らない間に今国会で通してしまおうということで、 とてもことを急いでいるのです。  子どもたち全員にちゃんとした教育を保障して、 社会を切り開く力をつけてもらうのが政府の仕事です。 今しようとしていることは全く逆で、 オリンピックでメダルを取れる選手だけを育てようとして、 その他の大勢は切り捨ててしまうようなやり方です。 スポーツでもわかるように競技人口を増やさずに トップクラスの競技選手だけ育てるということはできません。 そんな方法はいずれ破綻することは目に見えています。 そういう浅はかなことを考えている政府を許してはいけません。
(聞き手:教育基本法を読み学ぶ市民の会 in 滋賀)


教育基本法をめぐる状況は予断を許さないものになっています。
本会は、政府案の今国会で成立の有無にかかわらず、 自由で伸びやかな教育を求めて活動を続けて、 このようなニューズレターを発行していきます。今後ともよろしくお願いします。
また一緒にこのような教育問題について考えて行動していただける
会員を募集しています。
普通の市民・保護者のゆるやかな集まりです。問い合わせは下記にお願いします。

〒520-0860 大津市打出浜1?4 大津中央郵便局留 
教育基本法を読み学ぶ市民の会 in 滋賀
(略称:教基法市民の会 in 滋賀)
mail :kyoikushiminnokai_in_shiga@yahoo.co.jp
tel  080-6143-4051(事務局)


2006-12-11 00:03  nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(1) 

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コメント 2

hm

分かりやすい,そして,読み応えのある良い内容ですね。

 そして,改正法が通って,その路線で改革が進んだらこうなる,というイメージが具体的に示されていて,説得力があると思いました。

 オリンピック選手を育てる…競技人口を増やさずに…という最後のところなどは,たとえとして多くの人が共感できると思います。

 そして,正義・不正義とか善悪の視点だけではなく,「実際こうやっても上手くいくはずない」ということが述べられているところが,市民理解を広げるのにとても良いところだと思います。

 こういうとても良いものを多くの人に伝えるべく日夜励んでおられるmaiさんたちの奮闘,とても尊敬します!!
by hm (2006-12-11 18:39) 

mai

hmさん
ありがとうございます☆私の編集能力についてはちょっと疑問符がつきますが、先生のお話はとても良いものだと思います。

オリンピック選手の話は、先生が最後の方でポロッとおっしゃり、「確かにそうですよねえ〜」と二人で盛り上がった箇所です(ちょっと自信があったりして・・)。

駅前で配ったりもしているのですが、反応はまあいいみたいで、立ち止まって読んでくれている人もいました(字ばっかりなのに・・読みにくくてごめんなさい)。

hmさんの東京のお話なども楽しみに待っています☆
by mai (2006-12-12 23:05) 

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